講演会  
第32回淑瞳会 学術講演会報告
                    
 第32回淑瞳会を、平成26年6月21日(土)17時から、神戸ポートピアホテルで開催しました。あいにくの曇り空でしたが、会場は多数の参加者で賑わいました。

 第1部の学術講演会は、司会進行を山田里陽先生が担当し、まずミニレクチャーとして、神戸大学の三木明子先生に「黄斑部疾患~臨床研究アップデート~」、兵庫医大の細谷友雅先生に「コンタクトレンズ関連角膜感染症」をご講演いただき、その後、特別講演として、同志社大学生命医科学部医工学科教授の小泉範子先生に「角膜内皮疾患に対する新規治療法の開発」と題してご講演を賜りました。座長は片上が務めました。

 三木明子先生は、主として、中心性漿液性網脈絡膜症についての臨床研究のお話をされました。光干渉断層計(OCT)や、蛍光眼底造影などの所見から病態をわかりやすく解説していただき、他の眼疾患やステロイドとの因果関係に触れられ、最後に、遺伝子解析のご研究についても言及されました。大変興味深く拝聴しました。
 細谷友雅先生は、コンタクトレンズに関連した角膜感染症のうち、重症化するものとして緑膿菌とアカントアメーバによる感染をあげられ、主にその二つの角膜感染症について、病態と治療について詳しく解説していただき、大変勉強になるお話でした。

 特別講演の小泉範子先生は、培養角膜上皮移植の研究もされてきましたが、最近は角膜内皮の研究にも取り組まれ、次々と新しい成果を発表され、毎回大変興味深く講演を拝聴しています。今回も最新のデータを盛り込まれた素晴らしいご講演をいただきました。講演抄録を以下に記します。



「角膜内皮細胞はバリア機能とポンプ機能を持つことによって、角膜実質の含水率を一定に保ち角膜の透明性を維持しています。ヒトやサルなど霊長類の角膜内皮細胞は、生体内ではほとんど増殖しないことが知られており、外傷や内眼手術、Fuchs角膜内皮ジストロフィなどの疾患によって広範囲に障害されると、水疱性角膜症による重症の視力障害を生じます。

水疱性角膜症に対する唯一の治療法はドナー角膜を用いた角膜移植であり、近年はDSAEKやDMEKなどの角膜内皮移植によって良好な視力回復が得られるようになりました。しかし現在でも、ドナー不足や拒絶反応、内皮細胞減少による移植片不全など、解決しなくてはならない課題が残されています。

私たちの研究室では角膜内皮疾患に対する新しい治療法の開発に取り組んでおり、培養角膜内皮細胞の前房注入による再生医学的治療や、Rhoキナーゼ阻害剤などの薬物を用いて角膜内皮細胞を増殖させることにより、水疱性角膜症を治療する点眼薬の開発を行っています。
一部のものはすでに京都府立医科大学における臨床研究が開始されており、近い未来に臨床現場での実用化が期待されています。本講演では、角膜内皮移植の現状と角膜内皮トランスレーショナル研究の最前線をご紹介させていただきます。」



水疱性角膜症が角膜移植以外の方法で、しかも低侵襲な、Rhoキナーゼ阻害剤点眼や培養角膜内皮細胞の前房内注入により治療できるとは! 従来の常識を覆す画期的な治療法であり、感動さえ覚える素晴らしいご講演でした。

ご活躍めざましいお三人の先生のご講演、非常に勉強になり、明日からの診療も頑張ろうと意欲を奮い立たせてもらった有意義な学術講演会でした。


淑瞳会委員長片上千加子先生
による開会の挨拶




学術講演講師 小泉範子教授
ツカザキ病院  片上千加子